博物館ノート

春季資料公開 鏑木清方の書簡

収蔵品

 

kaburagi03.jpgkaburagi02.jpg

鏑木清方(1878~1972年)は、明治~昭和期の日本画家です。幼い頃から文芸に親しんで育った画業の始まりは挿絵画家からで、その後本絵(挿絵に対して独立した絵画作品の事)に取り組むようになりました。浮世絵の流れも汲む清方の画風は、全体の画面構成に古風なところが見られますが、人物の容貌だけでなく内面の心理まで描き尽くしています。東京の下町風俗をこよなく愛し、清らかで優美な女性を終生描き続けました。
この書簡は、昭和21(1946)年2月4日に書いたものです。 空襲のため、牛込矢來町から御殿場に疎開していた折、伊東深水(日本画家、清方の門下生)の執事である渡邊泰治に宛てたものです。
内容は、お互いの無事を歓んだ後、伊東君(深水)が来訪した事、御殿場での冬の生活の報告、今後の住居について、現在の作品制作状況、と続いた後、海苔を送ってもらった礼を述べています。
「大層おいしい海苔をおくっていただき久しぶりで本当の香りの高い上品を白い御飯で食べていると勿体ないと思ひます」
まるで読み手にも海苔の香りが香ってくるような文面です。
その後文面は清長(鳥居清長・江戸時代の浮世絵師)の画集を探してもらえないか、川瀬君(川瀬巴水、浮世絵師、清方の門下生)と共に来訪されることを嬉しく思うと続き、再び今後の住居について書き綴って手紙を終わらせています。清方はこの手紙を出した後、鎌倉材木座に居を構え、その後鎌倉雪ノ下に転居して画室を設け、93歳で亡くなるまでの間を過ごしました。
この手紙からは清方の様子だけでなく、「文部省の展覧会」(第1回日展)の開催の延期説があった事など、当時の様子がかいつまんで伺えます。